スウェーデンの民族音楽、ニッケルハルパ。
不思議な音色と形に惹かれて、ついにこの楽器を手にしたあなたへ。
「どうやって弾けばいい?」
「何から始めればいい?」
——そんな戸惑いは、誰もが最初に感じるものです。
ニッケルハルパとの新しい時間をこれからじっくり育てていきたいと考えている方へ。
タマダがニッケルハルパを始めた当時、日本にはニッケルハルパ教室も先生も存在せず、
音源も音楽配信サービスは影も形もなく、
海外のWebサイトを探して見つけたCDと画質の悪いYouTube動画だけが頼りでした。
それでも、少しずつ音を出し、響きを感じ、楽しみながら。
試行錯誤を繰り返してニッケルハルパと歩んできました。
現在では学びの環境も少しずつ整ってきています。
手にした楽器と共に音楽を楽しむ仲間も増えつつあります。
この記事では、タマダの経験をもとに、これからニッケルハルパを楽しむにあたって知っておくと役立つ情報やヒントをお伝えします。
- 楽譜はあまり得意でない
- 楽器に触れるのは久しぶり、またはほとんど経験がない
- でも、ニッケルハルパの響きに魅かれて、続けてみたい、ニッケルハルパを楽しみたい
そんなあなたにこそ読んでいただきたい、実践に生かせるガイドです
はじめに:この記事の目的と構成
この記事では、次の3つの柱で、ニッケルハルパの演奏を始めるために役立つ内容をお届けします。
- 練習のはじめ方(構え方・チューニング・耳を使うこと)
- 最初に弾いてみたいレパートリー
- 次のステップに進むためのヒント
演奏経験が少なくても無理なく進められるよう、できるだけ具体的なアドバイスを交えて紹介します。
あなたがこれからニッケルハルパと向き合っていく上で、役に立つことを願っています。
練習:まずは「構え方」と「耳」を育てる
適切な位置と構え方を探す
ニッケルハルパは、肩にストラップをかけて演奏します。
初めて手にした方は、その構え方に少し戸惑うかもしれません。
ギターのように肩や背中で支えるのではなく、首と肋骨で支えるような姿勢になります。
そのため、特に首にかかる負担が大きく、無理な姿勢で続けると体を痛めてしまう可能性も。
ニッケルハルパを長く楽しむために大切なのは、体に無理のない姿勢を見つけることと余計な力が入らないこと。
無理な姿勢で続けると、首や肩に負担がかかってしまいます。
体の負担が少なく、心地よく音を出せるポジションを見つけることが、これから長く続けるための土台になります。
ポイント:
- ストラップの長さを微調整して、体にしっくりくる位置を探す
- 座る姿勢の安定感を大切に
- 首や肩、腕に余分な力が入っていないか、意識してみる
「適切な構え方」は人それぞれ。
鏡を使って姿勢を確認したり、短時間ずつ試したり。
体と対話しながら、少しずつ最適なポジションを見つけてみてください。
チューニングを覚える
ニッケルハルパの演奏弦(spelsträngar)は、通常低音から C – G – C – A にチューニングされます。最も低いCは「ドローン弦」と呼ばれ、鍵盤はなく、全体の響きを支える重要な役割を担います。
さらに、ニッケルハルパには12本の「共鳴弦(resonanssträngar)」があり、これらは演奏弦の振動に共鳴し、ニッケルハルパの特徴である豊かな響きを生み出します。
チューニングの精度が高いほど、響きも美しくなります。
毎回の練習のたびにチューニングをする習慣をつけておくと、いつでもニッケルハルパの深い響きを感じることができます。
また、弦が適度に慣らされるのでチューニングも安定し、丸みのある音に近づいていきます。
耳で覚える=耳コピを習慣にする
スウェーデンの伝統音楽・民族音楽には、楽譜には表せないニュアンスやグルーヴ、呼吸のようなリズムがたくさん詰まっています。
そのため、できるだけ楽譜ではなく、耳を使って覚えることをおすすめします。
楽譜は備忘録の役割がありますので忘れた時に読み返すというのは効果的ですが、楽譜で覚えようとすると意外と難しいです。
個人的な感覚ですが、楽譜を使うと覚えづらく忘れやすいことがあります。
スウェーデン音楽と楽譜との考えについては過去に「『ポルスカと楽譜』私論」という記事で触れています。
耳で覚えることのメリット:
- 自然なノリや表情が身につく
- 歌えるメロディーは身体でも再現しやすい
- 表現の幅が広がる
耳コピの進め方:
- 好きな曲を何度も聴く
- 歌えるようになるまで繰り返す
- 動画を見て、指使いや弓使いを観察する
歌えるフレーズは自然と弾けるようになります。
音楽教育の現場でも、耳コピや口唱歌が効果的であることは多く語られています。
まずはお気に入りの曲を見つけて、繰り返し聴いてみてください。
歌えるようになるころには、手も自然と動くようになっています。
音を出してみよう
音を出すことに慣れる
最初の一歩は「音を出してみる」こと。
それだけで十分なステップです。
弓をまっすぐ動かして、音が鳴るポイントを探してみましょう。
初めは音がかすれたり、思ったよりも弱々しい音しか出なかったりするかもしれません。
でも、それで構いません。
誰もが通る道だからです。焦らず、音が出ることを楽しんでください。
ひとつひとつの動作を丁寧に試してみてください。
繰り返すうちに、自分なりの「心地よい音」に近づいていきます。
楽譜は「記録」として活用する
大事なことなので再度触れます。
ニッケルハルパで演奏される音楽は耳で聴いて覚えるのが基本です。
ですが、すでに覚えた曲を復習するときや、自分の記憶を整理したいときもあるでしょう。
その時は楽譜が便利な「記録媒体」になります。
- フレーズの順番を確認したいとき
- 弾いていて迷子になってしまったとき
- 他の人と合わせる前に構成をチェックしたいとき
ざっくりとした譜面が手元にあるだけでも安心できます。
大切なのは、楽譜を「入り口」ではなく「振り返りの道具」として使うこと。
「目で覚える」のではなく「耳と体で覚えたものを、楽譜で補う」。
このスタンスがニッケルハルパの演奏にはぴったりです。
レパートリー:最初に覚えたいおすすめ曲
音を出すことに慣れてきたら、次はメロディにチャレンジしてみましょう。
シンプルで覚えやすく、多くの人が弾いている曲を紹介します。
premiärlåten(プレミアローテン):
ニッケルハルパだと使う弦は一本だけ。
指のポジション移動もないとても簡単な曲ですが、弾けば弾くほど深みにはまっていきます。
Polska efter Båtsman Däck(ポルスカ・エフテル・ボーツマン・デッキ):
ニッケルハルパ弾きなら誰でも弾くポルスカ。
スウェーデン音楽の特徴、揺れるリズムが味わえます。
Slängpolska efter Byss-Calle No.32(スレンポルスカ・エフテル・ビス=カッレ):
このポルスカもニッケルハルパ界隈では超有名曲。
少しテンポが速めですが、練習に楽しいリズムです。
どれも「楽しく覚えやすい」ことを重視した選曲です。
まずは1曲、お気に入りを選び、繰り返し聴いて、歌えるようになったら弾いてみましょう。
YouTubeやSpotifyなどで多くの録音がある曲を選ぶと、耳で覚えやすく、参考資料も豊富です。
ついでに:タマダがスウェーデンのダンス伴奏をした時の様子です。
次のステップ:ひとりで悩まない
教えてくれる人を見つける
ニッケルハルパを弾き続けていると、
「うまく音が出ない」
「この動きがつかめない」
といった壁にぶつかることがあります。
そんな時、ひとりで試行錯誤するよりも、弾ける人に見てもらうことが上達の近道になります。
自分では気づけなかった改善点がすぐに見えてきたり、
ちょっとしたアドバイスが数週間の練習より効果的なこともよくあります。
サポートを受ける手段:
- オンラインや対面のワークショップ
- 個人レッスンやセッション
- 経験者との交流
タマダもレッスンやワークショップを開催しています。
ご興味があればぜひご相談ください。
続けるコツ
- 自分のペース、無理のないペースで音に触れる時間をつくる
- 毎日少しでも音に触れる時間をこころがけつつ、弾けない日も音楽に親しむ工夫を
- 好きな曲や演奏を定期的に聴いて、モチベーションを育てる
「ニッケルハルパが好き」
「ニッケルハルパを弾きたい」
という気持ちは最強の上達エネルギーです
焦らず、少しずつ。自分のペースで楽しんでいきましょう。
まとめ:ニッケルハルパとの日々を、じっくり育てる
ニッケルハルパは、音も姿もユニークです。
最初は難しく感じるかもしれませんが、焦らず、少しずつで大丈夫。
「いいな」「好きだわ」という気持ちがあれば、確実に一歩ずつ進んでいけます。
今日出せた音、今日覚えたフレーズ、今日つかんだ感触。
そのひとつひとつが積み重なって、「弾ける」につながっていきます。
この記事が、あなたとニッケルハルパの次の一歩を踏み出すためのガイドになれたなら幸いです。
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